2018年7月19日木曜日

発炎筒の中で選手を育てるクロアチアリーグ。

発炎筒の中で選手を育てるクロアチアリーグ。:
 フランスにはクレールフォンテーヌ、ベルギーにはサブロンが作ったトップスポルトがある。どちらも近代的なアカデミーで移民の吸収を行いながら、ロシアで躍進した国だ。強さは育成部門にある、という論調もわかる。しかし、クロアチアは育成部門が優れているわけではない。そもそも、協会が主導するアカデミーは存在しない。あるのはスポット的な若手強化合宿が一週間程度。これで、クロアチアの育成部門が優れていると論じてしまうのなら、日本の育成部門はフランス並に優れていると言わなければならない。日本にも協会主導の育成部門はあるし、予算で言えばフランス並である。
 クロアチアのリーグには、元国家クラブのディナモ・ザグレブがある。既に税制の優遇はなくなったが二十一世紀に入ってからザグレブが移籍金で得た金額は五百億円を超える。日本の過去Jリーグ全てで得た移籍金を足し合わせても届かないだろう。クロアチアの経済規模は日本の十分の一で失業率も高いが、このクラブは恐ろしく潤っている。
 ディナモ・ザグレブのゴール裏はいつも発炎筒が焚かれる。八十六年から存在する熱狂的なウルトラズ、バッド・ブルー・ボーイズが選手たちを煽る。相手に三点差をつけ、後でパス回しをしようものなら、発炎筒をフィールドに投げ入れ、ゲイ野郎とブーイングを浴びせる。小クラブに負けたものなら、練習場も発炎筒に塗れる。負けることに命の危険を感じる事は日本ではない。東欧、特に旧ユーゴスラビアは民族主義が今だに強い。クロアチア人はセルビア人を虐殺しているし、セルビア人もアルバニア人を虐殺している。そしてアルバニア人はロマを迫害する。ルカ・モドリッチが「クロアチアのリーグで活躍できるなら、どこでも通用する」と言ったのは、強固な胆力が鍛えられるからであろう。例えば、想像してみてほしい、技術に優れているが無観客試合で戦う選手と、技術はさほどでもないが発炎筒の中で戦う選手。どちらが強いかは科学的には証明出来なくても、人間の感覚としては自明というものだ。
 地域の代理戦争のようなリーグは欧州や南米にはたくさんある。選手の優秀具合がもし発炎筒の数であるなら、発炎筒自体を禁止している日本に勝ち目は無い。ちなみに、発炎筒の数とチームの強さは比較しているという論文もある。

プレイモデルからの逆算。プレイモデルによって練習は設計される。

プレイモデルからの逆算。プレイモデルによって練習は設計される。:
 プレイモデルとは、習慣によってチーム全体に共通の行動理念を植え付けることにある。今、有効かどうかはさておき、ゼロからプレイモデルを構築する事を考える。まず用語の統一をする。ピッチを縦と横に分ける。縦のレーンは5つ。サイドレーン、ハーフレーン、センターレーン。横のフォースは4つ。自陣からファースト・フォース、セカンド・フォース、サード・フォース、フォース・フォース。
 さて、こんな攻め方をしたい。セカンド・フォースから、サード・フォースを省略して、フォース・フォースにパスを出しフィニッシュに至る。中盤を省略した縦に速い戦術である。初期配置は三ー四ー三。構築の仕方は無数にあり、監督の好みで作ることが出来るが、次のような感じで約束事を設ける。
 セカンド・フォース底に守備ラインを構築する。三トップはサード・フォース上を基点としてフィードによりフォース・フォースに入る。フィードは中盤あるいは守備ライン、GKの選手が行い、フォース・フォースの空間に向けて出す。守備時敵がセカンド・フォースに侵入した時点で中盤側面はファースト・フォースに落ち、五バック化する。
 約束事が出来たら、動きを習慣づけるために練習を構築する。仮想的は三バックと四バック、二トップと三トップを想定。ロンドの練習は、プレイモデルの距離が判明しているので、沿った距離とする。ロンドの猿は敵トップに合わせて二と三。守備と中盤の七人ロンド、守備とGKの四人ロンド、五バックとGKの六人ロンド。もちろん、ロンドを構成するメンバーも陣形に即す。攻撃陣とは中盤省略型のため無し。そのかわりに、後向きでロングフィードを受け取りゴールへ向かう練習にする。ロングフィードはGKと守備と中盤中央の五人とする。中盤側面は守備タスクがあるため免除。
 非常にざっくりと書いたが、部活レベルの指導とは随分違うことがわかると思う。 ロンド一つをとっても実用上の距離で行わなければならないし、スプリントの距離も規定でき、中盤側面は五十メートル以上が必要だが、前線の三人はそこまで必要はない。守備、中盤中央が最も短いスプリントが課されるだろう。プレイモデルによって練習は緻密に設計できるのだ。選手獲得においても同様である。

2018年7月17日火曜日

縦に出し、目標とする位置に止める練習。

縦に出し、目標とする位置に止める練習。:
 時速九十キロのパスは一秒間に二十五メートルを進む。フィールドの半分を進むのに二秒だが、厳密にはシュートの初速に匹敵する時速百二十キロ程でなければ二秒では届かない。芝生に吸収され、減衰するエネルギーは多い。ところで、人間は〇.一秒を判別可能だが、静止から動き出しの一メートルを進むのに〇.三秒程必要だ。合格ラインとしては、ボールの二メートルに接近する相手に取られないような高速パスを〇.四秒以内に通せば門をくぐることが出来る。もちろん、複数の相手の横を通すならば難易度は増す。
 結局速いパスを出すことは敵がカットする確率を低くするといった、当たり前の結論に成るが、計算は一つの目安を提供し、それに沿った練習の構築に役立つ。通そうとする敵との距離が二メートル離れていて、シュート並の高速パスを〇.四秒以内に通せるならば、そのパスを敵はカットすることはできない。
 出し手に求められる性能は、時速百二十キロのパスを出すキック力、〇.四秒以内に蹴る動作、加えて精度だ、比較として中村俊介のフリーキックは時速百キロである。パスの種類はショートとロングの二種類。フィールドの四分の一、ハーフコートの距離、を正確に味方に届けることが必要だ。一方、受け手は最速一秒あるいは二秒だ。その少ない時間で初動し、相手を往なし、ボールの軌道に入り、そして足にフィットさせなければならない。プロの世界では出し手が出す瞬間に初動は終えている事が多い。それが有利に働くからだ。
 アスレチックなフットボールの世界は高度な動作技術なしでは成り立たない。
 加えて優れたパサーは受け取りやすいパスを工夫する。受け手の前で止まるパスだ。重心を後ろに起き、ボールの底を滑らせるように蹴る。足は振り切らない、寸止めにするタイミングは目標位置の微調整に使う。振り切らないため動作は速い、しかし力は弱いため補填する、インパクトの瞬間の重心移動で――。このように蹴ると、力強くどれだけ速い初速でも芝生を這うことでピタと止めることが出来る。中には腕を丸めて蹴る選手もいる、重心移動の補正を腕で行っているのだろう。
 これは無回転シュートの撃ち方に似ていて、一度コツを掴むとすぐにできるようになるが試合毎に微調整が必要だ。芝の長さは一定ではない。

マラドーナの放言は時に正鵠を射る。アフリカは移民のせいで弱体化した。

マラドーナの放言は時に正鵠を射る。アフリカは移民のせいで弱体化した。:
 アフリカの英雄で人格者に転身したドログバは、アフリカ勢がグループリーグで全滅した時「アフリカの危機だ」と言ったが、南米の暴れ馬マラドーナは、ナイジェリアに中指を立てまくったり、ノンスモーキングの場所で葉巻を加えたりしながらも、アフリカの現状を正しく言い放った。
「アフリカが弱体化したのは欧州がアフリカの移民を自国民にしたからだ」
 さすがに、現代的奴隷貿易とまでは言わなかったが、文脈は多いに孕んでいたはずだ。悪童だが流石に一時代の寵児。面倒臭いやつだが憎めないのは、物事を臆面もなく正直に言うからだろう。
 確かに今の欧州、大国はアフリカ移民を戦力化している。ドログバは上辺しか見えていなかったが、アフリカが弱体しているのではない。試しに、アフリカにルーツを持つ欧州の選手がアフリカ各国代表として出場したとしたら、フランスは優勝しているはずがない。ベルギーにも移民は多い。ロシアベスト四の低移民率で順位を着け直すなら、一位はクロアチア、二位はイングランド。そして最下位が移民共和国、フランスである。
 アフリカ系移民はアフリカからしたら裏切り者かもしれない。しかし、経済的な成功という点では、差別なく実力でのし上がることが出来るフットボールは、移民にこそ正にサクセス・ストーリーそのものだろう。フランスのエンゴロ・カンテはゴミ拾い業者の仕事では父親のいない自分の家族を養えないと悟り、フットボールの世界で成功を収めた。同じ気持ちの移民は多いはずだ。
 フランスの黒人はポグハのユニフォームを着る。ラ・マルセイエーズを覚え必死に同化しようとする。応援しているのはポグハではなく、鏡に移した黒い肌の自分かもしれない。
 移民への差別は強くなる傾向にあるという。だから、欧州の移民対策は一世紀早かった政策と、欧州首脳は裏で皮肉を言う。安価な労働力が流れ込み企業にとっては良いが、職を奪われるのは白人だ。イングランドはついに耐えかねて連合脱退、ブリジクトに動いた。
 アフリカ人は今後も郷土の尊厳を失うだろうが、差別の末には欧州で自身の成功を得るかもしれない。清濁併せ呑む今の欧州がロシアで透けて見える。

VARはPKを多くした。そして、MF、DFに転倒が起こる。

VARはPKを多くした。そして、MF、DFに転倒が起こる。:
 ロシアで採用された映像判定システムは、大会が終わってみればPKからの獲得率が多い大会となった。ダイバーの防止が一番の観点であるような気がしたのだが、どうやら、いままでの審判はペナルティエリアの多くのファールを見逃している、という結果が出た。これは少々意外であったが、映像で誰もが再確認出来るため、公平性としては大成功であろう。
 しかし、VARの結果から少し未来を見据えるとおかしな未来が見えてくる。
 まず、VAR導入前は、審判はペナルティエリアにおいて多くのファールを見逃してきた。という結果が導き出された。どうやら、ディフェンスはファールを隠すのがストライカーより匠で、もっとペナルティエリアではファールが多いようだ。しかし、今大会PKの獲得率は多くとも、まさにファールのもののみが正確に判定されるようになった。アカデミーでは今後このように教えなければならない――。
「ペナルティエリアでのファールは映像判定が常に行われる。もう相手の太股を蹴る守備技術は使えない。使うならエリア外で行うように。その位置では映像判定が行われないため、積極的に潰すべきである。特にカウンターは早めのファールが有効だ」
 違和感はあるが、より早く実践するのは晩夏から始まる欧州各地のプロリーグであろう。イタリアの戦術の導入は早いので、迅速に適応するはずだ。
 ペナルティエリアでの接触は少なく、中盤の接触は過剰に多く――。ロシア後の傾向になるはずである。そして、MF、DFのタレント性に転倒が起こる。旧来MFの役であったボランチがDFに移っただけではなく、MFの位置そのものを守備能力が高いDFが担う必要が出てくる。何故なら技術的なファールはもうペナルティエリアでは通用しないからだ。そうすると、DFに求められるのはスピードで抜かれないことであり、これは旧来MFに必要とされた能力である。VARはMFとDFの境界を決壊させる。ルールではなく、科学技術から戦術に変更が入るのは、おそらく初めてではないだろうか。
 さらに未来、半世紀後には、DFとGKの呼称しか存在しなくなり、攻撃の瞬間にDFはFWと呼び名が変わる時代が来るのかもしれない。

ロシアの地でサリダ・ラボルペは終焉を迎えたのか。

ロシアの地でサリダ・ラボルペは終焉を迎えたのか。:
 ポゼッションゲームの雄はスペイン、ラ・リーガである。そこにいれば、ゴールキーパーからパスを繋ぐ場合、毎試合見られる定石がある。サリダ・ラボルペ――。しかし、その基礎が南米にあることは専門家レベルでしか知られていない。アルゼンチンのラボルペがメキシコリーグで実践したボール供給法が、それだ。
 戦後から現代においても、フォワードは最大三人。そしてディフェンスも最小で三人だ。であれば、三バックにゴールキーパーを含めた四人でパス回しを行えば常に優位に立てるというのが、サリダ・ラボルペという戦術の基幹をなしている。もちろん、奪いに来る相手が一人あるいは二人の場合は更に有利に運ぶ。常に優位な位置がフィールド上の定点にあると言い換えてもいい。元ゴールキーパーの発見者ラボルペは実用を戦術に落とし込んだのである。そしてサリダ・ラボルペが発見された当初、スイーパーの再評価がなされ、ゴールキーパーにも足元の技術が必要であることが今度は明確に認識された。定石は南米から欧州に渡りスペインに特に根付いた。
 ロシアワールドカップでも、ゴールキーパーからボールを繋ぐシステムを採用している国は当然、これを使う。しかし、ドイツ、スペインは戦術の要塞たるサリダ・ラボルペに泥を塗ってしまった。あろうことかトニ・クロース、アンドレス・イニエスタというポゼッションの名手が単純なサリダ・ラボルペの最中に相手フォワードにボールを奪われ失点の原因となってしまったのだ。
 安全なサイドチェンジを行いながら、様子を伺うサリダ・ラボルペであるが、ボールにチャレンジすることを諦めないフォワードによって得点されてしまう――。各国のリーグ戦であれば、引き分けは許されるもので、それこそゴールキーパーにまでプレッシングを掛けることは少ない。しかし国の威信を掛けるワールドカップ。代表のフォワードともなれば、その国で最もアグレッシブな選手が担う役である。彼らに負けたサリダ・ラボルペ。ロシアの決勝でも、優勝国フランスに一矢報いたのは、ゴールキーパーまで向かっていった、そのアグレッシブさ、であった。
 現代のサリダ・ラボルペはどうやら、諦めの悪いプレッシングに弱いようである。

2018年7月15日日曜日

上半身の強化に片手懸垂のすすめ。

上半身の強化に片手懸垂のすすめ。:
 現代フットボールでは上半身の強さも考慮されるようになった。といっても、ラガーマン程にはいらない。特別な器具を最小限にしてフットボールプレイヤーに必要な上半身を鍛えることは、何百人といったアカデミーでは効率が良い。
 そこで懸垂のトレーニングを一つ取り入れる。正直この一つだけでも良い。懸垂は胸筋を中心として体幹筋群を鍛える事ができる。過剰に回数を増やせないところも効率が良い。片手懸垂の世界記録保持者でも一分間に精々二十回程度である。一般の人間は一回も出来ないレベルの強度だ。
 片手懸垂のトレーニングを行うには段階が必要だ。最初のレクチャーとして姿勢堅持を学ばせる。体の線がブレると骨を痛める可能性があるからだ。持ち手は順手で、逆手は腕力が足りない場合にのみ行う。その後に、まずは両手懸垂。懸垂といえば、これを差す。次に補助片手懸垂。補助は鉄棒に連携させたゴムを片手で掴む事で両手よりも強度を上げる。最後が片手懸垂だ。
 また、フットボールは体重別の種目ではないので、選手の体重によってウェイトも必要だ。中学年代は五十キロ。高校年代は七十キロ。プロが見えた時点では九十キロに設定する。例えば、高校年代で自身の体重が六十キロであれば、十キロのウェイトをつける。もちろん、体重がウェイトを超えている場合は着ける必要はない。ウェイトを着ける場合は腰ベルトも併用したほうがいいだろう。
 筋力分の食事を適切に取れば、フットボールアカデミーのようなアスリート向けの人間なら、一ヶ月で片手懸垂に到達することは可能だ。その後、五レップ三セットが可能な程度に鍛える。それ以上はフットボールプレイヤーには求められてはいない。過剰な筋肉の増加は可動と俊敏性を損なう。また、ウェイトを着けたトレーニングは無理をすると骨に負担がかかる、疲れが残っているのなら補助片手懸垂に戻しても良い。
 取り入れる前には、ボクシングトレーナーを呼び、ミット打ちを組み込んでいたが、こちらのほうが効果的である。

2018年7月14日土曜日

ナイキのアカデミーは広告的と思いきや、中々よいレッスンをしている。

ナイキのアカデミーは広告的と思いきや、中々よいレッスンをしている。:
 スポーツの世界では米国のナイキは巨人だが、フットボールの世界ではドイツのアディダスの天下だ。歴史を重んじる欧州、あるいはフットボール不毛の地である故の忌避、フットボールの中心は欧州なのだから米国は蚊帳の外。しかし米国のビジネスは逞しい。ついに、ナイキ自身がフットボールのアカデミーを権威高い英国に設立する戦略に出た。筆者も重箱の墨を突く陪審の心持ちで見学に参加したが、逆に関心してしまった。
 最も良いと思ったのは、パスで立ち止まらない練習である。少し前にオフ・ザ・ボールの動きが注目されていたが、それはもう古い。今は、パス・アンド・ムーブで連続事象の洗練が重要である。プレイを四次元的に切り取った場合、最も再現性が高い事象とはパス・アンド・ムーブだからだ。
 さて、パスで立ち止まらない練習は、ポゼッションゲームの応用で行う。ボールを失わない、地面に這うパスを出す。そして加えるのは、パスを出した場合、最寄りのポールにスプリントを掛ける事である。フィールドにはニチームの他に無数にポールが立っている。ボールを出した後はシャドウトレーニングに近くなるが、連続で同じポールに向かわない等、細かい制約も存在するようだ。同じ位置にポジションを取らせないための制約であろう。創造性の工夫にも見えた。
 アカデミーでは画一的な選手を作り出すことは可能だが、創造的なプレイを獲得する手段が試合でしか無いと批判されている。さらにはその試合は戦術の消化を目的にしているのだから、動きはまたマニュアル的だと批判される。アカデミーではメッシを創造できるが、マラドーナは創造できない――。耳が痛いところでもあるのだ。今だ熱狂的なストライカーはストリート的な南米が圧倒的な輩出量を誇る。
 育成年代においてパスを出した後、足が止まる選手は多い。その延長でJリーグでもパスを出した後、動きをやめてしまう選手がいるが、誰も矯正しようとしない。
 新興のナイキは古いものの欠点がよく見えているのかもしれない。


3バックと4バックの守備強度に関して育成年代に話すと――。

3バックと4バックの守備強度に関して育成年代に話すと――。:
 育成年代でいうと、中学年代後半から少しずつ戦術を教える時期である。個人技術に特化した突破は、絶対的な効力こそなくなったが、まだ幾分か効力はある。しかし、個の力と集団の力が逆転する時期でもある。戦術は勝敗を知性によって再分配する仕組みだ。もしかしたらこの時期からフットボールが面白くなる選手も多いのかもしれない。大敗していたものが、戦術によりそうでもなくなり、試合の一時的な局面では、プロのような連携も可能になるからだ。
 そのためには、陣形の殆どを占める、3バックと4バックを説明しなければならない。どちらが勝てるのか、という話ではない。監督がどういう意図で陣形を組んでいるのか大前提の知識を教えるためだ。
 さて質問である。3バックと4バックどちらが守備強度が強いのか――。
 4バック、と安易に答える選手に説明しなければならないのだ。
 フットボールに長く関わっている人間からすれば、3バックとは守備時に5バックで守ることを意味する。その変形こそ戦術と呼べるものであるが、次に出てくる質問は、こうだ。
 なぜ、最初から5バックではないのか――。
 さて、どう答えればよいだろう。並び見れば確かに5バックは最も守備強度が高い。育成年代向けの答え方であるのだから、ぼかしても良い、どの道、戦術を実戦すれば感じ取れるからだ。
 こんな答え方をしている。初期陣形はもはやキックオフ時の一時的なポジションでしか無い、と言われる現代だから、5バックから攻撃のために3バック化するよりも、3バックから守備時にのみ5バック化した方が上手くいく。引くことは攻める事よりも簡単でいつでも出来るのだから、まずは攻撃を考えるべきだ。
 陣形は状況により変化すると教えたほうが、監督もカードを切りやすくなるし、選手たちも考えるようになる。戦術はこれこそが重要だろう。日本人は幼少期であれば、より従順であるが、勝つことよりも指示に固執するのは良い事ではない。一人ひとりが戦術を考え、失敗し、怒声を浴び、不満に思う。監督の言い分は戦術の一つであると理解するべきなのだ。

縦に出すことの利点。

縦に出すことの利点。:
 縦に速く――。現代フットボールのキーワードだ。しかし、何故縦に速く出すのか、理論的に示されていないことが多い。縦に速く出す、最短距離だから良い、といった感覚の人間は多い。しかし、厳密には違う。縦に速く出すことは組織化されたプロのチームであれば有るほど利点のあるものなのだ。
 そのためには、まず、レーンの概念を説明する必要がある。従来の横に三分割した、アタッキング・サード、ミドル・サード、ディフェンシブ・サードは有名だが、二十一世紀に入りショートパスの有効性が証明されると、縦に分割する考え方が生まれた。これがレーンの概念で、一般的に五分割する。似ているが英国では縦に三分割する考え方が古くからある、しかし、これはキック・アンド・ラッシュのためであり、分割方向は同じでも原点が違う。
 縦に五分割するレーン理論はシンプルなルールに従う。同じレーンにパスを出さないことだ。このルールに沿うと陣形が最適化され、受け手の動きが明白になる。レーン理論は後ろ向きでボールを受けないために、角度を鋭く斜め前に出すこと、と言ってもいい。
 しかし、今や常識となった、このレーン理論には欠点がある。それは斜め前のロングフィードに対して相手が対抗しやすくなることである。相手がマンツーマンを採用しているときはより顕著だ。同じレーン以外では異様に人が多い。人が多ければ多いほどパスカットされる確率は高くなる。しかし、逆に同じレーンを考えると、前進距離に対して相手が少ない。レーン理論の同じレーンにパスを出さないことを突き詰めると、同じレーンに少し長くパスを出したときの有効性が現れるから不思議な感覚であるが、隣のレーンにショートパスが基本、そしてサイドチェンジはリスクが高い、だから同じレーンにロングフィード、と導出される。もちろん、ノーリスクではない、目の前の相手を往なす必要があるからだ。
 監督の中にはサイドチェンジの信望者が多いが、レーン理論をプレイモデルに組み込んでいる場合は精度の高い選手以外は禁止するべきものである。

2018年7月13日金曜日

育成年代の監督が八歳までに教えること。

育成年代の監督が八歳までに教えること。:
 まず八歳以下の選手は高度な戦術の把握が難しい事を理解する必要がある。数学の因数分解を中学年代で教えるのは脳の発育上の問題があるからである。概念や類似置換という話が特に知性を必要とするようだ。興味の問題もある。色々なものに興味が向く分、集中力とはイコール興味の程度に他ならない。興味は自分中心の考え方であり夢中になることは可能だが、周りとの連携は自我が許さないことが多い。
 そして精神の発育を促すことは監督の仕事ではない。日本ではそれも仕事のように捉えられるが、幼少期の育成年代の監督が教えることは技術である。年代により教える技術は詰まっているのだ。
 八歳までに教える技術は次のような練習で達成できる。まず、三人とミニゴール、ボールを用意する。一人がディフェンダー、一人がパサー、一人がストライカーの役で、ボールが途切れる事に交代させる。
 ルールとは次のようなものだ。ディフェンダーはゴールを許してはならない。ストライカーは後ろを向いてはいけない、十秒以内に攻略する。パサーは開始のパスと、セカンドボールをシュート。ストライカーが後ろを向くか、シュートを打つかが一つの区切りだ。他はフットボールのルール通り。ゴール前の攻防を延々と行うと言ったほうがわかりやすいだろう。
 効能は興味の維持、ドリブル、デュエル、動きからシュート、こぼれ球の処理、そして前を向くことだ。特に前を向き続ける癖は重要だ。ディフェンスの圧力下にあると選手は自然と後ろを向いてしまう。これは幼少期から矯正する必要があるし、怒声を出してでも改めさせなければならない。
 この時期に本格的なパスを教える必要はない。教えずともそのままフットサルの試合を行えば、自然とパスが出るようになる。仕方なく後ろを向いてしまう時、その時がパスのタイミングだと自身で気づくはずなのだ。プレイモデルのように自然と習慣づくように誘導するのが重要である。

2018年7月12日木曜日

サウスゲートのセットプレイ、散開戦術の勘所。

サウスゲートのセットプレイ、散開戦術の勘所。:
 ロシアワールドカップのいくつものコーナーキックにおいて、キック直前に位置取りで揉める場面が多く見られる。さらには、空中では肘打ちやホールドによる妨害。目立つ一人がするなら審判は判定できようが、十人以上となれば正しいジャッジは無理な話である。
 さて、イングランドはこれからワールドカップに臨もうとしている。妨害の多くはイングランドの中心人物ハリー・ケインに集中するだろう。妨害だけならまだしも、セットプレイで彼が負傷しては元も子もない。相手がどのように出てくるか考えた場合、中心人物を徹底的にマークするのは当然の戦略である。
 サウスゲートはそこで考えた。初期の位置取りを放棄する代わりにマークの分散を行う事。何処に誰が配置されるかは、毎試合変える。散開は複雑で規則性がない。乱数を使っているような動きだ。背番号、コーナーキックの回数、あるいは前半か後半かで、ニアかファーだけを指示され、各選手が思い思い動いているようだった。セットプレイ対策を大本からキャンセルするような意図が見えた。
 位置取りは、ペナルティ・キック付近に全員が集合する。少し後ろめ、という感覚だろう。それにより、相手はマンマークをしたいが、ゴール前を固めるためゾーンディフェンスしか出来なくなった。例え試合前にケイン対策としてマンマークを練習していたとしても――。キックと同時にプラン通りに散開。コーナキックにおいては今大会ナンバーワンの決定率だ。
 これがロシアでほぼ毎試合点を取ったセットプレイ戦術である。イングランドは結局最後までたどり着けなかったが、今後のワールドカップにおいて主流になりそうな戦術を彼は披露したのだった。

プレースキック時の呼吸はラマーズ呼吸。

プレースキック時の呼吸はラマーズ呼吸。:
 ラマーズ呼吸とは産科医のラマーズが導入した出産時の呼吸法のことだ。ヒッ、ヒッ、フー、とオノマトペの方がわかりやすいだろう。
 フットボールとヒッ、ヒッ、フー。もちろん、冗談で言っているのではない。フットボールは極端に酸欠が発生するスポーツである。酸欠はまず内臓に影響を与える。スピードを挙げたタイミングで横腹が痛くなる原因の一つは酸欠である。運動において酸素は使用する部位に集中的に送られる。フットボールなら多くは下半身だ。接触に寛容な現代では上半身も使われるようになってきた。スプリント時には一時的に呼吸も止める。酸欠はますます深刻である。そこで運動中、体は内臓の機能を低下せざるを得ない。
 しかし、フットボールは試合が途切れることが多い。ファールはカードを二枚貰わなければ、何度でも可能で、プロになればプロフェショナル・ファールも多い。整える時間はある。そこで、プレースキック時のいっときにラマーズ呼吸で酸素供給の安定化を図るのだ。
 クリスティアーノ・ロナウドはフリーキックの場面で深い呼吸を何度も行う。彼は緊張してそれを行っているのではない、自分の息子にフリーキックを教えている場面の動画があるが、彼は明らかに大きく息を吸って、と指導にしている。
 ラマーズ呼吸で酸素供給を安定させればいいと書いてはいるが、要点は酸素を大きく吸い込む事だ、深呼吸を何回か行うなど、別の酸素強供給法があれば、それでもよい。ラマーズ呼吸で酸素を取り込む方法の出本は陸上の世界からだ。酸素が全身に行き渡れば、もちろん脳にも十分に行く。緊張や混乱からの脱出にも一役買うだろう。

体幹は大事だがアジリティディスクの事故率は高い。


体幹は大事だがアジリティディスクの事故率は高い。:
 少し前まで採用をしていて中止した体幹トレーニングがある。フットボールでいう体幹とは、相手との接触等により体が通常動作に比べ崩れた場合、体全体で持ち直す総合的な力である。全身の筋力でもあり感覚でもあるため、総じてフットボールの様々な事象において倒れない力、と言ったほうがわかりやすい。
 問題は体幹を鍛えるとされる器具、アジリティディスクだ。バランスを崩す事が容易に出来るのが最大の利点で、確かに体幹を鍛えることが出来、育成年代で採用していた。しかし、アジリティディスクを用いたトレーニングを週一度、二部練習時に行い年間運用させると、年間のトレーニング評価で恐ろしいことが発覚した。トレーニング時間は年間五十回程度で、十五分程、延べ時間は千分に満たない。つまり時間でいえば、十試合分である。初年度の終わりに練習を評価した時に、異常に気づく。統計的に試合において、選手一人あたりの故障率は十試合あたり一回未満。しかし、アジリティディスクを使った試合時間相当の故障率はなんと十試合あたり五回。故障の内訳は捻挫、と軽度なものばかりであるが、「これは恐ろしい。石の上でフットボールをするようなものだ」とコーチ陣全体で即取りやめる事を決定した。現在は代わりに十五分程度のフットサルになっている。
 体幹は大事ではあるが、器具によっては事故率が高い物が多いのではないだろうか。バルセロナのトップチームの練習でバランスボールに座りながらヘディングのやり取りをしている動画がある。なんとも強度の低い練習であるが、その背景には同じ理由があるのではないか。億万円を超える選手たち。負傷をするにしても試合でなければ割に合わない。

2018年7月9日月曜日

運動飢餓を知らぬ母親の説得に苦労する。

運動飢餓を知らぬ母親の説得に苦労する。:
 チームで子供を預かる場合、食事を提供する母親を説得するのは苦労する。問題はその量だ。女性としては食事と肥満は切っても切れない関係であるからかもしれない。しかし活発に動く成長期の人間にとっては食事と運動飢餓だ。
 運動によるエネルギー消費量を理解できないのが最大の問題で、親は文字通り一般人の食事量を元に食事を提供しようとする。人間は一日二千キロカロリーを必要とし、七割が維持、二割は活動、一割は消化のため。子供は成長するから、もう少し多めに――。知識としては間違いなく正しいだろう。
 しかし、もう少し多めにという感覚が千キロカロリーとは考えない。メッツで計算してもわかるのだが、たった二時間の運動でもフットボールは千キロカロリーを消費するスポーツだ。プロの試合であれば、千五百キロから二千キロカロリーをたった数時間で消費する。筋肉が大食らいであることを理解できないと言い換えても良い。筋肉は消費した以上に回復に当てる栄養がなければ消耗するばかりだ。筋刺激を運動で与え、筋力を増強するチャンスであるのに。
 運動飢餓が保護者の無知で子供に発生するのは、育成年代の障害だ。もしかしたら日本人選手のフィジカルに関する最初の問題がここにあるのかもしれない。
 もちろん回避する手段もある。寮に入れ的確な時間に的確な量を提供することだ。チョコレートは禁止だが、ポテトチップスが可なら文句はあるまい。一日の食事は三食と運動直後の補食になる。補食といってもオヤツのようなものではない、なにせ訓練で失われた千五百キロカロリーを取るのだから、胃にとっては強大な負担だ。また日本特有の問題もある。ピロリ菌。スポーツ特待を受ける学生にはメディカルチェックでまずピロリ菌が存在しない事を証明してもらっている。胃袋の大きさはイコール筋力維持量だからだ。
 技術はあってもフィジカルが弱い日本人の課題は根深い。幼少期から専門のアカデミーに入れるメリットは日本にこそあるような気がする。それこそ日本の保護者的に難しいが。

乾のタッチラインから内へ入る動き。

乾のタッチラインから内へ入る動き:
 ロシアワールドカップの乾の戦略は一貫していた。守備は問題のあるものの、攻撃としては自身の長所を最大限に出す戦略であったと言える。
 ファイナルサード付近でタッチラインを踏みサイドに張る。相手は中央を固めるために何度もフリーで乾は受けた。吉田は柴崎のフィードから学んだのか、現代的ボランチの役目を徐々にこなしロングボールをフリーの乾に入れるようになった。
 しかし、二ゴール一アシストの活躍をするにはもう一手工夫で、それは徹底していた。コーナーの袋小路へ向かわないことである。
 ロングボールを受け取った乾は頻繁に外へフェイントを入れた。侵入したいのは内だ。中央付近まで侵入し、シュートコースがあれば自ら打ち、難しそうなら中央の香川と連携を模索する。後ろの長友にコーナーからの攻撃は任せていた。それほどまでにコーナーに移動することを禁止していた。
 乾、香川、長友で攻撃の整理があったのだろう。そしてそれは非常に単純なもので、これは即採用可能な戦術だ。
 サイドバックはオーバーラップ時にはサイドからの攻撃のみを行う。タッチライン際のウィングはサイドを捨て中央への侵入を常に試みる。時間がかかるなら、オーバーラップしたサイドバックか中央のプレイヤーに預ける。
 侵入する技量は必要だが、連携面は非常にシンプルになる。まずボールを貰ったら仕掛けるという一択しか無い。その後の状況により手は最大で三手まで増える。侵入に手こずるほど選択肢が増えるのも良い。
 誰が考えた戦術か――、といえば、エイバルの攻撃的指揮官メンディリバルであろう。乾の動きはエイバルの時と全く同じだからだ。おそらく、乾は香川のスターティングが確実となった時点で会話を持ったはずだ。この戦術はよく機能した。香川は欧州では有名な選手で中央を開けるわけにも行かない。本田でも同様だった。ロングボールが入りやすくなったのは中央にスタープレイヤーがいるからでもある。
 乾は次の構想にも入るだろうから、そのうち広く知られる戦術になるであろう。

2018年7月8日日曜日

野球式一軍二軍、トーナメント方式に今だに依存する日本の蹴球育成環境。

野球式一軍二軍、トーナメント方式に今だに依存する日本の蹴球育成環境:
 正直にいうと日本は億万人居るのだから野球的一軍二軍の考え方で問題ないかもしれない。しかし人口比による潜在力として考えた場合、人口三十万人のアイスランドでワールドカップに出場できる戦力を整えられることがわかっている。欧州の育成年代は十代前半まで可能な限り全員を試合に出場させるプロと同じ形式のリーグ戦があり、年間五十試合は組まれる。もしかしたら日本の学校的区分が良くないのかもしれない。同一組織でも八チームあることは欧州ではザラで、同組織の複数チームはそれぞれレベル別のリーグ戦に五十試合分参加することで選手の可能性を潰さない配慮がなされている。一方、日本はトーナメント、一試合で終わる可能性があり、二軍は一切出られない。
 試合に出れば出るほど上手くなる、なんていうことは、スポーツ競技をしたことのある人間なら誰もがわかるはずだが、それを行わない部活的環境下に今だに日本の育成年代はある。
 オランダのクラブチームに取材をしたことがあった。一週間程。中に入る機会も与えられ有意義であった。その中で議論されていた事の一つに、どうすれば年間九十試合を行えるだろうか、という話題があった。育成年代にである。一週間に二回試合を行う。日曜日を休日にして、中二日、水曜試合、中二日、土曜試合。プロの大きなクラブであれば、年間九十試合ほど行う。議論に出た理由はプロも行っているのだから、行おうとすれば可能であるという点だ。ちょうど、レアル・マドリードがAチーム、Bチームに分かれていた時期で、それを模して少し大きなスカッドを育成年代に構築し、プレイモデルの共通化と競争意識を高める――そんな話だった。
 日本であれば、試合が多すぎでは、と言うかもしれないが、オランダでは練習をしっかり行えば試合で良い活躍ができるとは誰も思っていない。試合で生まれた課題を消化するために練習があるわけで、中心にあるのは試合だ。
 フットボールとは練習が中心にあるのか、試合が中心にあるのか――。
 言うまでもない。監督のプレイモデルなんてシーズン前の合宿、十日程度で身につけられるものでなければならない。極論をいえば、練習はその十日だけでもよい。あとは試合で感じ入れば勝手に練習するはずだ。これもプロと同じ条件でよい。そしてオランダでは育成年代でもコンペティションにはスポンサーがつき、傷害の保険や審判の費用が捻出される。企業が付けばコンプライアンスの名の下に責任の所在が明らかになり、経費の面で利点がある。青年と商売の合掌に顔を歪める日本を異国で不思議に思ったのだった。
 それでも今、高校の年代は良くなった。プリンスリーグを筆頭に都道府県別でもリーグ戦が行われている。しかし、ゴールデンエイジ、最も伸びる中学年代の試合数は、なお少ない。フットサルで足りない試合数を補う所もあり、それが中学年代の唯一の希望だ。技術を教え込ませるのは走力よりも時間あたりのボールタッチ数が重要だからだ。

現代フットボールの共通戦術、モダンプレッシング。


現代フットボールの共通戦術、モダンプレッシング:
 現代フットボールはハードだ。ストライカーの走行距離が五キロに満たないマラドーナの時代とは違うし、スプリント速度が二十五キロ程度のジーコやヨハン・クライフが体力測定で入団を拒否されるような時代である。
 アスレチックな能力を前提に現代フットボールは再構築を行っていると言っても良い。しかし、十代前半のゴールデンエイジには技術を中心に教えなければならないという、アカデミーの育成者にはジレンマもある時代だ。
 何故ここまでアスレチック化しているかというと、一つには技術革新により数値化しやすくなったからだろう。もう一つは、相手へ寄せる能力が勝敗を大きく左右することがわかってきたからだろう。確定的ではないが確率的にわかる事実があり、チームを個人ではなく群れとして解釈した場合、あるいは、一試合一試合の原因を追求せずスタッツのみで解釈した場合、出てくる結論は、走行距離やスプリント回数、ヒートマップに拠るからだ。
 データは何を意味しているのか。データから還元し勝ちやすい練習を模索する作業は当然行われる。兎跳びを百回するような練習は出来なくなった。クラブチームは経済の上に成り立っており、勝つために必要な事は熱血より合理性。ジョグを外し、ボールを扱う練習のみを行うチームも出てきた。プレイモデルは監督で買えるが、現代フットボールに共通するものは、まず必須といえる。
 モダンプレッシング――。
 言葉は英国の指導者がユーモアの一種でいったであろう言葉を採用するが、モダンプレッシングはいくつかのシークエンスで成り立っている。
 モダンプレッシングの構成要素は、ハイプレッシング、フォクシープレッシング、ゲーゲンプレッシングだ。その動作中に五秒ルールとセンターカットルールを適用する。ハイプレッシングは高い位置からプレッシングを行う単純な事象の事で、フォクシープレッシングはプレスの寄せ方に関する決まり事だ。奪ったらどのように展開するかを決めるのがゲーゲンプレッシングであり、さらにはゲーゲンプレッシングとは攻撃の仕方の一種であるから、監督の志向するプレイモデルに依る。五秒ルールは奪われたら五秒以内に奪い返す約束事で、センターカットルールはパスの出処は中央を最初に切るという確率的に良い方針であり、この二つのルールは全体を通して共通する約束事だ。
 しかしモダンプレッシングを九十分間行う事は難しい。スプリントは出来て五十回程度で、延べ時間は僅か五分間。
 アリゴ・サッキに始まりラングニックとペップが洗練させたモダンプレッシング。もしフィジカルと認知の限界がまだ選手に存在するならば、数年後にはさらに洗練されたものに成るだろう。現状は陣形をコンパクトにするチームが多いように、モダンプレッシングの省エネ化が課題となっている。

2018年7月7日土曜日

マン・ゾーンとボール・ゾーン

マン・ゾーンとボール・ゾーン:
 フットボールのディフェンスの大枠はマンツーマンとゾーンディフェンスである。今注目したいのはゾーンディフェンスだ。陣形守備やゾーンとも略す。ゾーンといっても、フットボールはバスケットボールではないので、コートに対して行うゾーンはセットプレイの場面でしか存在ない。
 フットボールのゾーンディフェンスは二種類に分けられる。人を中心にゾーン陣形を組むマン・ゾーンと、球を中心にゾーン陣形を組むボール・ゾーンだ。極自然と成立するゾーンは、相手の位置に応じて陣形を変えるマン・ゾーンであり、一見効率も良さそうに見える。しかし、フィールド全てでプレッシングが常識となった現代では、ボール・ゾーンは良い選択肢だ。
 ボール・ゾーンの発想は簡単だ。試合においてボールの行方こそ最重要なわけだから、それを中心に選手が行動したほうが効率が良い――。そして、マン・ゾーンと違い、状況によってマンツーマンが発生し高い頻度で接触がある事が特徴だ。ボールが移動してもそれは変わらない、ボールを取り囲むのだから、比較的安全なショートパスの交換でも、即座にプレッシングを掛けることが出来る。陣形がコンパクトであればなお良い。サッリのナポリは七メートルの間隔まで縮める。例えフィールドの片方に極端に寄っても、マンツーマンではないので、ボールから遠い場所に人はいない。せいぜいがサイドチェンジに対して一人置いておく程度で反対側にいる二、三人の相手に対応できる陣形守備の基本的利点も使える。
 ボール・ゾーンの最大の利点はトランジションの移行に優れていることだ。ボールを奪ってもボールを中心に陣形が存在しているし、奪われても同様だ。攻守切り替えの速さに注目が集まった現代により再発明された守備戦術といえる。
 ボール・ゾーンはイタリアの戦術家サッリが得意とする。弱兵を指揮し、個の力で打破できない現状でゾーンを選択するしかなかった彼は、その上で点を取る事を追求し完成させた。ボール・ゾーンは攻撃にも守備にも人数を割ける組織戦術である。


2018年7月6日金曜日

ハリルは結局、的を得ていたのではないだろうか。


 ハリルが分析したように、ワールドカップの勝ち所は彼が掲げた縦の速さだった。日本フットボール界のスポンサー的問題で、ハリルより本田を優先した田嶋協会だが、グループリーグを突破したのも柴崎の縦のセンスであったし、本選に破れたのも縦の速さであった。そもそも、ブラジルワールドカップの戦術分析にも、ゴールに至るまでのパス数は少ない方が点を取りやすいことは判明していたし、世界標準でもあるプレミアリーグは極端に縦に速い。ロシアを振り返れば、ハリルの遺産でベスト十六を達成したとも言える。もちろん細かい修正に関しては西野の手腕であるが――。
 日本協会の監督選びは旧ユーゴ系列、イタリア系列、そしてフランス系列と協会間で盟友関係を結び、歴代の外国人監督を招聘してきた。特に、旧ユーゴ系が多いのは、なぜかと疑問に思う人はいるだろうが、彼らは数珠つなぎのように自分たちのコミュニティーの人間を猛プッシュするような売り込み上手な所がある。影響は国内リーグにも及び実際旧ユーゴの監督は多い。しかし逆に、イタリア、フランスはあしらうように、ザックやトルシエと、一流半ぐらいを押し付けてきた。世界のフットボールはアジアではなく欧州なのだから欧州の監督にとってアジアはキャリアの凋落に違いない。カッペロやリッピを見ると余生のようにさえ思う。まあ理由もわかる。アーセナルの偉大なアーセンも、日本で監督を指揮していたばかりにプレミアに来たときには、アーセン、誰?と皮肉を食らったのだから。
 欧州の最前線で活躍する優秀な監督が日本代表の監督になるわけではない。国際ランク五十位以下の国の監督を引き受ける欧州人は少ない。
 それに加えロシアで日本協会が断行したことは汗水垂らして得たチケットを奪って本人は置いてけぼりにするような仕打ち。オール・ジャパンと鼻息荒く、結果は存外に良かったが、次の監督選びが難航するのは見えている。
 ハリルはフランスリーグの英雄だから、殊更フランスの受けは悪い。イタリアは日本にかまっている場合ではないだろう。とすると、もし外国人監督を招聘するなら、近年日本人を輸出しているリーグ。スペインやドイツに頼る可能性は高い。
 今の日本に足りないのは極限の冷静さだ。もちろん、高さもある。そういえばハリルも選考の点にサイズを挙げていた。
 ハリルのやっていた事は確かに最先端で的を得たものだった。ポゼッションにさほどの意味はない――、スペインの千本の無駄パスが証明した。縦に速く――、日本はセネガルと互角に戦った。サイズも必要だ――、空中戦が得意なフェライニ投入は勝敗を分けたポイントでもある。ただ日本人が出来なかっただけでハリルのフットボールは世界標準であったのだ。
 さて、ロシアでの日本の指揮官が退任することが決まった。どのような理由で次の監督を選ぶのだろうか。

敗因を挙げれば本田だが、さて彼の行動を止められるのか。


 ロシアワールドカップ本戦、日本対ベルギー。最終的に逆転され二対三で負け。まさか。劇的に。と、素晴らしい試合だったとは言えるが、日本人っぽい負け方だな、と、にわかの周囲が言えば、確かに納得もしてしまう。
 試合後、第三者であるイタリアの名将カッペロが日本戦を解説し、「私なら、あの時、本田に時間稼ぎをさせる」と言った。
 あの時とは運命の瞬間だ。
 後半二点先行し、二点返され同点。試合が振出しに戻った七十四分からは防戦一方。国際ランキング通りに圧倒されるばかりである。そして運命の九十四分。フリーキックを経て後、コーナーキック。最後のチャンスを日本は得る。キッカーは本田。すぐに蹴った。弾き返されカウンター。十秒後には日本は逆転されていた。何が足りないのかと、日本の指揮官は茫然自失に語った。
 さて。現実は受け止めても、実際にあの場に監督として立ち、本田のコーナーキックでカッペロが言うように時間稼ぎをさせることが可能なのか検証してみたい。
 まず、カッペロが言った、時間稼ぎをさせること、は戦術的に正しい。防戦一方であったわけだし、ロスタイム、コーナーで靴紐でも結べば時間は稼げる。そして延長戦の前にある休止時間で落ち着かせる事はできたであろう。カードは二枚しか切っていなく、最後の一枚でまだ勝負も出来る。もし、延長戦に入ったのならば、日本は後半の終盤よりも間違いなく有利であったはずだ。なるほど、監督の戦術としてはわかる。
 しかししかし、選手のあの時の判断はどうだろう。
 劣勢のあの場面で本田が考えることは何かといえば、起死回生のキックであろう。本田という選手の行動からして、間違いなく三点目を狙うのは明白である。いや、本田を知る誰もがわかるのではないだろうか、フランスの解説者でも、彼は絶対決めれると思っているような自信家なんですよ、なんて言っていたそうだし――。
 コーナーをすぐに蹴らせなければ、高速カウンターを防ぐ手立てを指示する事はできる。デ・ブライネだ。彼の近くに一人つければ良い。正確なロングフィードが高速カウンターを成立させるのだから――。そのためには、まず、コーナでゴールしか見えていない眼光鋭い本田にコーチングをする必要があるのだ。
 少し時間を戻して中村俊輔と本田が共にいたワールドカップ。プレースキックは全て中村が蹴ることになっていた。しかし、試合中、本田が蹴りたいと詰め寄った事があった。監督の指示を無視して。そして実際に本田が蹴った。
 さて、眼光鋭い本田に今ロシアで指示しなければならない。「延長戦を考えている。少しでも時間を稼いでくれ」
 三点目を取るなと聞こえているかもしれない。実際予選の三戦目は敗戦を指示したわけだから。
 タイムリープして何度繰り返しても、本田はすぐ蹴るのだろう。劇的を狙って。
 唯一回避する手段は三枚目のカードを切って本田を交代させることだが、それでは延長戦が戦えない。
 カッペロの言は正論だが結果論だ。本田が本田であるかぎり局面を再生しても手詰まりな敗戦である。

madara.tenmoku. Powered by Blogger.